高砂の姥ではないけれど、帚で掃くが好きだ。掃除機は、あの音が苦手。
歴代猫達も、掃除機を、恐がった。
天使猫亜子ちゃんが病気の間、少しでも大きな音はたてたくなかった。亜子は、掃除機をかけだすと、綴織絨毯を駆け上って、箪笥の上に乗ってしまった。
今、孫猫真心子ちゃんは、丸い体をますます丸くして、長椅子の奥に駆け込む。
掃除機を気にしなかったのは、老猫ミュッセだけ。一日中掃除をしている管理人さんの猫だったのではないかと、思う程、落着いていた。
以前、猫は、掃除機を恐がるのに、何故もっと大きな音のする洗濯機は恐くないのだろう、という話になった。多分、動かないからだろう、と。
この話をしたのは、仏蘭西人の友人とコルシカ島に廻った時。一晩、知り合いの留守宅を借りた。翌朝、掃除機が見つからないので、友人は、帚で掃き出した。
「帚はいいね」と。
「何だか、気持ちがおちつくね」
露台の檸檬の木の葉影には、淡い金色の実が鈴なりの、清らかな夏の朝だった。
亡父も、よく帚を手にしていた。就寝前、自分の寝室兼書斎を、掃いていた。若い頃禅にも凝ったためだろう、「一日の埃や塵を払うんだよ」、と言っていた。最晩年、足腰が弱くなっていたが、それでも帚は、部屋の隅に置いてあった。
「病気でも、掃除していたのよ」と、母があきれる祖母の遺伝だろう。
「お姑様と同居していたときには、柱まで、磨かされたの」
母は、凡そ掃除が苦手だった。一つには、生家に、いつも女中が数人いて、子供時代は、鉛筆まで他人に削らせる暮らしだったからだろう。しかし、今思うに、脚の悪い母には,立ったままでいなければならない掃除機も帚も、辛かったからでもあろう。
その母に会いに、明後日から二週間、京都に行く。
そのため、明日は巴里に戻る。
真心子といつも一緒の寝室を、先ほどもう一度掃き清めた。今度、こうして帚を持つのは、日本から、戻って来た時。真心子は、いい子にしていてくれるだろうか。天使猫亜子ちゃんに御願いして行こう。

というわけで、ブログ、九月半ばまで、お休みいたします。
いつもご愛読くださる方々に、心より御礼申し上げます。
時節柄、どうぞご自愛くださいませ。

塵をはく音も微かに窓辺より夏の終わりの陽の射す小部屋

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パイプオルガン

(承前)
太い梁を支える斜めの柱の横に、木でできた模型が置いてある。全体は、長さ50センチ足らず、幅はその約半分、 縦10センチ程の長方体。横長の箱を五つ並べてある。箱の一つ一つの表面に丸い穴が7つ刳り貫いてある。一番奥の部分の穴には、筒がはめ込んである。
『パイプオルガンの仕組み』と、札が出ていた。
「これは、オルガンの内部の仕組みです」
と、おじいさん。
「普通には、パイオルガンを見学するといっても、外側からだけです。中を見せる事はできません。だから、この模型を作ってみたのです」
「貴方が作られたのですか」
おじいさんは、頷いた。
横についたキーと鍵盤で、箱の穴が調節され、大小の筒に空気が送られ、あの独特の重層的な音がでるらしい。おじいさんの話によると、筒の材質は、関係しない。
「試しに、ボール紙で作ってみましたが、同じような音でしたよ」
筒の中の気体が、音の元なのだろう。
先日、雅楽の楽器笙について調べていた。仏蘭西語には、訳しにくいが、口で鳴らす小さなパイプオルガンのような楽器と、説明できるかもしれない。
「空気を送り込むのは、今は、電気です。でも昔は、人力でした。数人で大きなふいごを押していたのです。」
アフリカのヌメアのように、水力利用もあったという。空気を送る設備とオルガンとは、離れていてもいいのだそうである。
「馬や驢馬が、空気を送る器械を廻していた事もあったのです。」
A町の聖マルタン教会のパイプオルガンは、県下でも二番目に大きい。
今度、教会の犬フィフィに、パイプオルガンを鳴らす馬の話を聞いてみよう。

睡蓮の 花夕闇に 紛れけり

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木骨建築

歴史民芸館に入る。テレビが、録画を放映していた。
『A町の木骨建築(コロンバージュ)』。まさしくこの民芸博物館や、フランソワ一世画廊、向かいのパン屋さん等がでている。
A町の中心部、僧院長通り、市の広場等の古い家並みは、ほとんど木骨建築である。 木で枠組みを作り、その内側を壁土で埋めてある。
最も古い物は16世紀にさかのぼる。失火による大火事でほぼ全焼した町を再建するため、当時の領主ロベール=スチュアートが、自分の森の材木を供給してくれた。今でこそ 、黒褐色の柱は艶光りをし、卵色の壁は陽の光を浴び、 窓は花で飾られているが、20世紀半ばまでは、漆喰等で覆い隠されていた。家の古さを隠す為だった。
蘇った木骨建築に関する記録映画である。
係の女性が、最初に巻き戻してくれた。
地元の作品だろう。
木骨建築の歴史、その構造、種類、製造方法等、30分ほどだろうか。プールの近くの運動公園の小さな池が、それぞれの章の初めに映し出されている。
見応えがあった。特に、水平状態で各面を仕上げてから、組み合わせるというのは初めて知った。技術の発達には、船大工が、貢献していたそうである。模様にもそれぞれ名称と意味があることも、知らなかった.『聖アンドレの十字架』や『逆さV』や、『麦の穂』など。パッチワークに似ている。魔除け、豊穣、家内安全など、洋の東西を問わず、今も昔も庶民の願いは、同じらしい。壁土には、藁や襤褸布の他,馬の鬣なども混ぜる事があるそうだ。
やや年取っていると思われる男の人の解説も、わかりやすい。映像も綺麗。
終わった時は、思わず拍手をした。
「 質問があったら、きいてくださいよ」
轆轤細工をしていた白い髭のおじいさんが、赤い顔で笑みを浮かべて、立っていた。
「あなたの作品ですか?」
「そうですよ。 気にいっていただけましたか?」
画面から流れていた声と同じだ。
おじいさんは、木骨作りの建築の案内もしているそうだ。
「この夏の、この民芸館の主題は、木の細工です。木靴とか、楽器とか。」
おじいさんは、ますます白雪姫の小人に似て見えた。

紫陽花の 色薄れ行く 残暑かな

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轆轤細工

田舎の家のあるA町は、小さいながら、なかなか文化活動が盛ん。
羅馬貴族の荘園だったのではないかという起源から、ツールの聖マルタン教区に所属し、百年戦争を機にスチュアート家が移住して来たり、ルイ14世によって英国王シャルル二世の寵妃であったルイーズ=ド=ケロワール公爵夫人領になったりと、ソーローニュの片隅に位置しながら、歴史との関わりが深かったためかもしれない。
先日、聖母被昇天祭の午後、降るかと案じつつ、静かな曇り空に、歴史民芸館に行った。轆轤細工の実演を見るため。
石畳の中庭、髪も顎髭も真っ白な、小さな太ったおじいさんの周囲に、四、五人集まっていた。白雪姫の七人の小人の一人を思わせるおじいさんだ。一見小型のミシンのような、電動機械を使っている。器械の一部に、木の角柱をはめ込み、刃物を当て、回転させると、丸みが出来る。当てる刃物の形によって、いろいろな丸みや線ができる。紙ヤスリを当てて,さらに研ぐ。
振動音は、それほど高くない。耳を塞いでいる小さな男の子は、どうやらふざけているようだ。笑っている。
やや薄目の茶色の木片が、球体と円柱を組み合わせた、チェスの駒のように仕上がった。触らせてもらう。すべすべしている。熱心に録画していた少女が、貰ってにこにこ、握ったりさすったりしていた。 日本にも木地師の伝統がある。昔、お椀などに見られるくり物の容器は、曲げ物よりも高価だったと、聞いたことがある。しかし、見るのは初めて。
おじいさんは、電動だが、昔は、勿論手動。
実は、漠然と焼き物の轆轤のように、縦長を想像していたので、横長に驚いた。よく考えてみれば、縦長では四方八方、凄い勢いで夥しい木の粉が飛び散ってしまう。
「私は、専門家では、ありません。ただ、仕事をしていた関係で、轆轤細工を知っているだけです」
「失礼ですが、何をなさっていたのですか?」
少女の母親が聞く。
「楽器を作っていました」
「楽器をーーー」
おじいさんは、頷いた。ゆっくり、重々しく。突然、威厳さえ、感じられた。

薄曇り祭日の朝煙突に羽を繕ろう鳩の鳴き声

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行雲流水

僅か二十分程の川沿いの野の道だが、帽子を被り、時には、日傘までさして歩く。
プールへ行くという、目的はあるが、やはり散歩のような気がする。
時折、たちどまって、道端の植物を見る。青い小さな花の名前は、知っているけれど思い出せない。考えていると、てんとう虫が、葉の上にとまっていた。
たんぽぽにも、いろいろな種類があるらしい。 花びらの数が多く、全体が丸みを帯びていたり、一弁一弁が細長くすっきりしていたり。 太く逞しい茎が、地を這うように低いものから、風にそよぐほどほっそりと高いものまで。
空は、青い。
子供の頃、図画の時間に使った水彩絵の具の青のようだ。
真っ白い雲が、光を含んで流れて行く。天上の風は、早いらしい。
これも、子供の頃、猫と犬と馬と鳩を連れて雲に乗って、世界中をまわる女の子の話を作った事を思い出す。小さな大学ノートに色鉛筆で挿絵を入れて、編集していた。
ブログなどない頃だったが、多分、同じような事をして遊んだ子供達は、大勢いるのだろう。
大きなラブラドールを二匹連れた男の人は、屈んでビニール袋を取り出した。そういえば、犬の散歩をしている人は多いけれど、道の両脇は清潔だ。
自転車の子供達が通る。三人兄弟。少し年の離れた少年と言ってもいい長兄が、まだ一年生くらいの末っ子と一緒に走っている間に、真ん中の子は、全速力で先に行って、一人で遊具で遊んでいたりする。次男坊気質まるだし。
亡父は、妹三人の嫡男であったが、実は次男だった。父が生まれる前に亡くなった長兄は、可愛らしくて利口でと、祖母はいつも懐かしがっていたらしい。祖母と不仲であった祖父は早くに隠遁し、父は、若い頃から、病弱の母親と結核体質の妹達の責任を負って生きることになった。
本当は、喧嘩っ早くて、スキーもできて、独りで山登りをするのが大好きで、政情不安な朝鮮半島にも行ってみた。晩年の子の私の知らない父がいた筈なのだ。
行雲流水。
悠々と生きたかっただろうに。父は、最晩年まで、散歩が好きだった。

雲を見上げて、歩く。
自ずと口ずさむのは、少女時代から愛誦しているロバート=ブラウニングの『春の朝』。
季節は夏で、私は、全く少女ではないのだけれど。

夏の朝梢ならして風渡る木立の奥よりキツツキの音

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