プールの猫さん達 秋(二)

ここ数日の天気の変わりやすさ。 朝の内、浅葱色の空から金色を帯びた陽光がさしたかと思うと、白い雲が一刷毛、二刷毛、広がり初め、陰晴定まらないままに午後を迎えて、夕刻には雨となる。
あまつさえ先日は、昼過ぎ、突然の乱拍子。眠っていた真心子も顔をあげて、窓の外を見つめた。大粒の雹が、半透明の線となって、降っていた。雹は、始まったと同様、ぴたりと止んだ。後には、つかのま青空さえ覗いた。
ブーローニュの森のプールへ向かった。数分の雹に、辺り一面濡れていた。
庭木戸から差し覗く。真っ黒な猫が、通路に坐って、こちらを見ていた。横に丸い顔だ。逃げはしない。引越して行った管理人さんが、「時々黒い猫がくるけれど、あれは雄みたいですよ。どうも父親ではないかな」と、言っていた。生け垣の陰に餌をおいておく。
一泳ぎしてから、再び生け垣の辺りへ。先ほどの餌を食べたかと、不用意にかがみこんで手をのばしたら、虎雉猫が、飛び退いた。母猫だ。一瞬、こちらをみつめ、また食べ始めた。黒白猫も、家の方から駆けて来た。母猫は譲る気もなさそうに悠然と食べている。もう一皿用意する。黒白猫は、慣れた風に待っている。
顔を見るとにゃあにゃあ、如何にも猫らしい鳴き声で催促する母猫と、じっとものいいたげに見つめる娘猫。 二匹とも管理人さんのいた真ん中の家の玄関前によく坐っている。彼は、奥さんが、猫嫌いなので遠慮しいしい、そこで毎朝そっと牛乳をあげていると言っていた。
僅か半年、四季折々の花が絶える事のなかった庭は、見る影もないが、それでも、濃い紅薔薇が、小さいながら数輪咲いていた。曇り空に伸びる蔓の先には、淡い鴇色の薔薇が、風に微かに揺れていた。

つかのまの輝き欅黄葉して

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プールの猫さん 秋

田舎から巴里に戻って二週間後、やっとブーローニュの森のプールに行く事ができた。
それは、珍しく晴れた日曜の朝。硬く澄んだ青空。あらかた葉を落とした橡の並木の梢をかすめるように、白い雲が、ゆっくりと流れて行く。今年は、雨の多い十月だった。森の雑木の黄葉も、金色に輝く間もなく散り敷いて秋霖に濡れている。
プールに隣接する競馬場の工事は、入り口まで続く地下道にも及んでいた。つくりかけの硝子の壁で、幅が半分となっている。地上に出る。かつて芝生のひろがっていた一帯は、掘り返され,赤土のまま。粗雑な立ち入り禁止の柵の向こうには、機械が放置され、空き缶や紙くずも見える。
工事の始まる直前、五月に引越して行った管理人さんが「滅茶苦茶になるだろう」と、言っていた。彼がいた頃は、手入れの行き届いていた官舎の庭も、寂しく荒んでいる。冬枯れ近いとはいえ、彩り一つない。ただ、伸び放題の蔓薔薇の蔓の先に、鴇色の薔薇がほころびかけていた。初夏、『プールの猫さん達』(前述)が、寝そべっていた敷石の間にも、雑草が生えている。
それでも、芝生の上に、プラスチックの容器が置いてある。だれか、餌を与えてくれているのだろうか?
官舎の周囲には、基部を十センチほどのセメントで固めた金網が巡らされ、その内側に、柘植にも似た,細かい葉の生け垣が設えてある。既に疎らとなった、生け垣の下から覗く。
突然、目の前に黒白猫の顔が飛び出した。天使猫亜子ちゃんよりも黒の多い、鋭い逆三角形の顔。管理人さんが、「好奇心旺盛でね」と、笑っていた一番馴れていた娘猫。 生け垣の下で、寝ていたのだろう。 逃げもしないで、凝っと見つめている。
それから、おもむろに踵を返すと,庭の入り口の金網の扉の方に来た。全身が、よく見える。痩せてもいない。管理人さんが心配していた片目も綺麗だ。よく目やにが出ていたが、杏仁形のつり上がった目が、はっきりしている。
用意してあった餌を生け垣の陰に置く。すぐに食べに戻った。細い黒い尾が見える。
泳ぎ終わって、再び庭を差し覗く。やはり、居た。
入り口近くまで、来て、きちんと坐った。見送ってくれるかのように。

梢重く白きりんごの花盛り幻にたつこの秋の朝


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