三年目

日本と仏蘭西の夏の時差は、7時間。
ちょうど三年前の8月23日未明に息をひきとった若い女性。
孫猫真心子の名は、天使猫亜子ちゃんと、彼女のブログ名からとった。
スキルス胃癌で苦しみながらも、書き続けていたブログには、今でも、勇気づけられることがある。
彼女が最後迄気にかけていた六匹の猫達は、どうしているだろうか。
今でも彼女を忘れないブログの読者さんたちが、他にもいると判って嬉しい。

A***氏との再会

「あっ、A***氏」
思わずM氏の袖を引っ張った。
恒例八月十五日聖母被昇天祭の御彌佐の後。聖マルタン教会の脇の扉から出てきたのだろう。ゆっくり、何となく要心している様子で、しかし、背筋をのばしまっすぐ前を見つめて歩いている老人。
「そうです。そうです。」
聖母像奉納行列を見送っていたM氏は、振り返って大声をあげた。猫背を一層前屈みにして、出来る限り早足で、でも、こちらも転ばないように要心しながら、 A***氏に近寄って行く。
「あ〜。」
と、二人一緒に破顔一笑。八十四歳と九十五歳。
「いや、九十五は今週で終りましたよ。」と、 A***氏。
薄い翠の麻のワイシャツに、紺と臙脂色のネクタイ、灰色がかった上着に、翠と灰色の細かい縞のズボンをあわせている。眼鏡もかけず杖もついていない。透明な補聴器だけが、ほんの少し見えている。
朝市で一度も姿を見掛けていないため、先日行きつけの薬局のC夫人に尋ねてみた。
「踏み台から落ちて、入院したそうですよ。果物をとろうとして」
「は〜っ。」
M氏も私も慨嘆しつつ顔を見合わせた。これまで何人の高齢者が転んだり、ちょっとした所からおちたりして大事に至った話を聞いているだろう。
「そんな、九十五歳で、踏み台に乗るものではないわよね。」
「そうです、そうです、絶対いけません」
日頃喧しく注意されているM氏は、熱心にうなづく。
何だか悔しくて、腹がたってくるくらいだった。去年の夏、ちゃんと歩いて朝市に来ていたのに。買い物の目録迄作って、お肉も買ってーーー。
「怪我をしたと聞きましたよ。」
「ああ、あちこち。一度は脇腹をね。この間は、左肩をね。踏み台には乗らないようにって、前々から注意されていたのにーーー。今度は、本当に凝りましたよ。」
にこにこ笑っている。
「一週間だけ入院してね。また、少しずつ、朝市にも行きますよ。だってねーーー」
軽く拳を握るようにして、
「長生きするだけではなくて、やはり、生きないとね。」
ヴィーヴル(生きる)。
そして、悪戯っぽく笑って付け加えた。
「でもね、水泳はもうだめですよ。」
若い頃、M氏の父親を知っていたという A***氏と、知り合ったのは、プールがきっかけだった。少なくとも八十歳までは、背泳ぎで泳いでいたように思う。
「では、また来年、できればね」
「また来年」
M氏に続いて握手をする。
柔らかな暖かい手だ。
A***氏 は、先ほどと同じように、背筋を伸ばしまっすぐ前を見て、通りの反対側の小路へ消えて行った 。

野の鳥の一斉に立つ青空に白雲流れる休暇の後半


東北地震犬猫レスキュー.comborder="0">


にほんブログ村 猫ブログ 猫 海外生活へ
にほんブログ村



朝市のメロンと『梟党』

夏の朝市には、メロン売りが数軒たつ。他の野菜や果物も一緒に並べている店もあるが、メロン専門の店もある。
メロンは、天使猫亜子ちゃんの大好物だった。二十一年前の七月末、まだ掌にのる大きさで引き取られて来た亜子ちゃんは、毎朝、一匙づつ掬ったメロンの果汁を舐めていた。最後の夏にも、半分に切ったメロンに顔を突っ込むようにして果汁をすっている写真がある。
数年前から、メロンは大抵、山羊のチーズ屋さんの隣、町で一軒の本屋の前の専門屋台で買う。
大中小と仕分けて山摘みにされたメロンは、外皮が緑で果肉は樺色。
「おいしいよお。味見してってくれよ。ヴァンデのメロンだよ。」
陽に焼けた小柄な中年女性が、威勢よく叫んでいる。
「ヴァンデ地方から来ているの」
「そう、産地直売」
おばさんは、誇らしげだ。
ヴァンデ地方といえば、フランス革命のおり、貴族も民衆も反革命派として蜂起した熾烈な戦いの舞台。「ヴァンデの聖人」と呼ばれた若き行商人カトリノーや、弱冠二十二歳で戦場に散った指揮官ド=ラ=ロッシュジャクラン伯爵など、硬骨の士を生んだ土地柄。
いわれてみると、小母さんも、なかなか厳しい面構えをしている、ような気がする。
ヴァンデ地方の反革命の波は北上して、バルザックの小説でも知られる『梟党』にも影響した。手元のフォリオ版『梟党』の表紙は、『歴史新誌』ヌーヴェル=ルヴュー=ディストワールの「ヴァンデ党」特集号の表紙と同じカトリック王党派の一人タルモン公の肖像画を使っている。それまで知らなかったフランス革命の一面に大いに驚きながら、読んだ作品。
ヴァンデ党も梟党も、中央に対する地方独自の矜持を、命をかけて示したのだろう。
今でさえ、こうして夏の間だけでも田舎に住んでいると、パリはフランスそのものではないと、つくづく思う。
「今日食べる分と、二、三日後用と分けとくよ」
おばさんは、慣れた手つきでメロンを撰んでくれた。

鴇色の薔薇の蕾に夏の雨

朝市と椅子の修理

先週に続いて、朝市へ蜂蜜を買いに行く。
常々不思議に思っていたのが、蜂蜜の種類。朝市の蜂蜜屋さんには、「アカシア」「春の花」「ヒース」「ソーローニュ」「樫の木」「蕎麦」等が、並んでいる。色も透明度も段階的に異なっているのは、前述の通り。もちろん味もかなり違う。
「どうしてなの?」と、聞いてみる。
「まず、 花の咲く場所が違うの。うちは、600個の養蜂箱を十八カ所においてあるから。 それから、花の咲く季節があるでしょう。春の花が、ほぼ一番早くて、その後順番の咲いて来て、今は、そろそろ蕎麦の花の時期なの。」
「季節毎に採れる蜜がちがうのね」
「そう。それに、同じ蜜蜂達が、全部の種類の花の蜜を作る訳では、ないの。普通、一種か二種類。三種類が限界ね。」
「蜜蜂の集団によって専門があるのね」
「そう」
奥さんは、笑い出した。 知れば知る程、奥の深い蜜蜂の世界である。 子供の頃、母が一升瓶で取り寄せていたのは、蓮華の蜂蜜だった。仏蘭西では蓮華の花を見掛けた事がないから、蓮華の蜂蜜は無い訳である。熊のプーさんが、壷を足の間に抱え込んで舐めていたのは、何の花の蜂蜜だったのだろう。
今朝の朝市には、古い椅子を修理に持って行った。M氏の祖母のものだから、19世紀後半くらいだろう。背もたれと脚に簡単な飾り彫がしてあり、座席部だけ籐の網地となっている。その部分に穴が開いてしまった。 浅黒く逞しい初老の男に預けた。
「いい椅子ですね。うちは、全部手で編みますからね。丈夫ですよ。出来合いの網をはめる奴らとは、違います。」
こうして朝市に「籐椅子修理」と看板を出しているのは、所謂『放浪の民』出身が多い。この男の家族も、その一つ。近くの村に長年定住して、職もあるし、子供達も学校へ行っている。ただ、一度、修理に出した椅子を貰いに行った時、家はあるのに、庭の移動住居用の大きな自動車に寝ていて、驚いた。今は、どうしているのだろう。
数年前、グラン=パレで観た『ラ ボエーム』展は、よかった。ヨーロッパの文明に深い関わりをもつ放浪の民の、一般に知られていない部分に光を当てていた。

朝顔の本葉の伸びる逞しさ


東北地震犬猫レスキュー.comborder="0">


にほんブログ村 猫ブログ 猫 海外生活へ
にほんブログ村



ありがとうございます 真心子より

残暑御見舞いもうしあげます。
といっても、真心子の今いるソーローニュのお家では、26度が最高気温という日が多いのですが。
怠け者マミーちゃんに変わって、ご挨拶です。
数ヶ月もお休みしてしまっていたのに、その間もきてくださった方々、本当にありがとうございます。
茅ヶ崎は、マミーちゃんのお父さんが、出張でいつも行っていた町です。そこの海岸の野良猫さん達、みんな幸せになってくれますように。
天使猫亜子ちゃんは、チーちゃんの年まで長生きできなかったけれど、真心子は目指しますよ。それに素敵な盆地の町は、マミーちゃんのお友達の出身地です。
まだきっととてもお若いのに、可愛い猫のお写真が上手ですね。マミーちゃんのちょっとわかりにくい文章もよんでくださっているのでしょうか。とてもうれしいそうですよ。

その他、ブログの使い方さえ忘れてしまっていたマミーちゃんなので、これからゆっくりご訪問させていただきますが、本当にありがとうございました。そして、猫さん達が、みんなみんな元気で幸せでいてくれますように。
        減量を言い渡されたことだけが悲しい、真心子より。
 


Profil

桐の葉も

Author:桐の葉も
Bienvenu à FC2 Blog !

Derniers articles
Archives mensuelles
Catégories
Recherche
Lien