一重の赤い椿

二月末、馴染みの花屋さんに寄った。手土産用の切り花を選んでから、ふと横を見ると、店の外の隅の壁際に椿の鉢植えが一鉢だけあった。田舎の家の庭に一本欲しいと思っていたが、冬を超すまで巴里の狭い住まいに置いておかねばばらない。花屋でみかけるどの株も、大抵かなり大きいので迷っていた。これは、丈一尺程。花は咲いていない。小さな固い蕾が、幾つかついている。
「それは、まけておきますよ。もう売り物にならないから。」
と、まだ若いご主人。
雨に打たれ、蕾が全部傷んでしまったそうだ。そういえば、茶色く斑点が出ている。立春を過ぎてから一頃、まるで春時雨とでも言いたい程、毎夕のように驟雨が、襲ってきていた。一瞬のうちに辺りが暗くなり、白い雨脚が幄のようだった。
「勿論、また伸びてきますよ。でも、それまで置いておけないから。」
有り難く購入して、陽のよくあたる浴室の窓際に置いた。
蕾は膨らむ事もなく、次々と落ちてしまった。ただ一輪だけ花が咲いた。赤い一重だった。御茶の友人達が来る日まで持つかと思ったが,前夜、落ちた。
一週間ほど後、新しい蕾は結ばないまま、枝先に葉の芽が生まれた。硬く閉じている間は、黄緑色。すこし広がって来ると、淡いえび茶色を帯びる。それからゆっくりゆっくり開いてきて、中央に新しい枝も伸びて来る。まだ一様に緑とならず、うーんと、伸びをしているかのような幼い葉は、触るとすべすべしている。久しぶりに煌めく昼の陽を透かしている。
「冬が長過ぎましたね。」
人々は、挨拶代わりに言っている。
「これで春になるといいですね。」
先ほどよく見ると、もう一つの葉の芽もほころび始めていた。

春待つや幼子のごとくひたすらに

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