『忘れ得ぬ芸術家たち』(井上靖)

「御借りしている谷崎源氏の挿絵を描いている前田青邨の話がでていたので。」
と、知人が貸してくれた『忘れ得ぬ芸術家達』。ゆったりとした笑顔とともに、豊かな知識が溢れ出ているのに,いつもちょっとはにかんだ風に小首を傾げて話し始める彼女から教えられた本は、もう随分の数になる。
井上靖が大阪毎日新聞の美術欄担当記者であった事は、よく知られている。何かで美術工芸品のような作品を書きたいと、いうような意味の文を読んだ事もある。この心構えが、完成度の高い彫琢された作品を生み出す秘訣なのかもしれない。
著者が、直接間接に見聞きした芸術家の肖像が主体であるが、その内容は多彩である。中でも、実際に親炙した河合寛次郎と、反対に故人の身近に仕えた人々を通して語られる岡倉天心の肖像は、心に残る。これまであまり関心がなかった両人について改めて知りたくなった。特に寛次郎は、京都に住みながら縁がなかった。五条坂の賑わいをつい敬遠してしまっていたが、次回帰国のおりには、訪ねてみよう。反対によく訪れた白沙村荘の主橋本関雪の知られざる一面に驚いたりもした。そういえば、銀閣寺近くの関雪旧邸の奥深い木立に囲まれた緑池の鯉に麩を投げ与えた事など、懐かしい。
昭和の美術史上重要な法隆寺壁画模写、正倉院御物展覧会の裏話なども、何度か通った奈良のひやりと澄んだ秋の気を蘇らせる。
さして厚くない文庫本だが、読み終えると著者の敬愛する芸術家の生き方、芸術の在り方が明らかになってくる。前田青邨もそうだが、須田国太郎、坂本繁二郎等。その表現は異なっても、じっくりと腰を据え、自己に忠実な真摯な姿勢で一貫している。浮薄軽軽拙速、騒々しさからは遠く隔たっている。
以前、著者による手仕事をめぐる随筆集『きれい寂び』からも、同じ印象を受けた。
ここでは、美術だけだが、文学音楽、総ての芸術に通じるある価値観が、静かに語られている。

夏椿 散り敷き未だ 暮れやらず

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