大人猫さん その二 フェビウス『小さなパン屋さん』

白猫フェビウスは、A町での二度目の夏休みを、無事終え、再び巴里暮らしとなった。
田舎の家では、夕食後一時間程は、ロンロン時。風通しのよい廊下に安楽椅子を据え、水泳眼鏡をつけたM氏が坐る。隣の籐椅子にフェビウスが、飛び乗る。喉を鳴らしながら、軽く爪をたててM氏の腕を前足で交互に揉む。パン屋さんが、パン種を捏ねているようーーー。厚手の部屋着に守られていても、M氏は、嬉しい悲鳴をあげている。
その内、肩までのび上がってきて、鼻をM氏の顔に擦り付けようとする。水泳用眼鏡が必要な所以。一度、何かに驚いて飛び跳ねて降りた瞬間、M氏の目のすぐ近くをひっかいてしまったから。やがて、今度は、膝の上で丸くなった。まだ慣れないのか、少し居心地悪そうではあるけれどーーー。
一年半前には、想像出来なかった光景である。
寒波が厳しく、雪がよく積もった一昨年の聖誕祭の直前、トロカデロ公園の外猫が怪我をしていると、連絡を受けた。一週間程行方不明だった当時五歳の雄猫。生け垣の下に潜んでいるのを、R老嬢と協力して捉えた。獣医で打撲傷の治療は終えたが、そのまま再び放すのは、危険に思われた。しかし、既に病持ちの亜子ちゃんがいる。私は手伝えない。暮れの30日に、M氏が全面的に世話をする条件で引き取った。
最初の三ヶ月間は、高い本棚の上に昇ったまま。緊張のあまりか、ほとんど食べなくなった。近寄ると、目を見開いて、硬直してしまう。何度、公園に戻した方が、いいのではないかと、悩んだ事か。しかし、95パーセントの猫は、懐くという話を励みに見守った。
公園にいた最後の日々、何か恐ろしい目にあったのか、外に逃げようとはしない。幸い、これまでの外猫同様、とても綺麗好き。食事の世話、砂の入れ替、総てをするM氏をじっと見つめている。
ほぼ終日家に居るM氏の寝室と書斎の間の壁に開けた猫用の通路穴が、転機となった。いつのまにか。M氏の居る部屋居る部屋に来るようになった。そのうち、同じ布団の上で寝始めた。
今では、M氏の姿が見えないと、大きな身体に似合わぬ可憐な声で鳴き立てる。外出から帰ってくると、『小さなパン屋さん』となって、歓迎してくれる。
公園に居た頃は、汚れがちだった毛並みも真っ白に、「太陽」の名前の通り美しい猫と成った。

帰り来ぬ巴里はマロニエ散りそめて猫と再び籠り居のとき
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桐の葉も

Author:桐の葉も
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