苔桃摘み

日頃何かとお世話になっている元自動車修理業のB夫人に誘われて、果樹園へ苔桃摘みに行く。他にも、木苺やすぐり等が、収穫時との事。
A町の外れという程でもない、畑や森の多い一角。仮建築の倉庫兼事務所の前には、すでに車が十数台、停まっていた。黒いラブラドールが、迎えに来てくれる。大人しい。
朝九時、空は青く、白い雲が流れ、風は冷やりとするけれど、澄んだ陽差しは、寧ろ肌に痛い程。
建物の裏には、見渡す限り灌木の畝が続いている。大人の胸の辺りくらいまでだろうか、濃い緑の葉が、茂っている。
「おや、すぐり。随分立派な房ね。」
と、B夫人。露と朝日に煌めいて、瑞々しい小さな赤い実が、びっしり重たげだ。ルビーのような、という例えは,本当だ。長い房は、葡萄程のもある。巴里で見掛ける貧弱な紐のような枝と数個の実は、この一部だけだったのだ。早速、摘む。
木苺も摘む。葉陰にぶらさがる逆円錐形の実に、木苺とは、うまくつけたものだと感心する。
目当ての苔桃。小さな時、『赤毛のアン』であったか、『熊のプーさん』であったか、コケモモと読んで、地面や石を覆う苔に成る実かと,想像していた。これも、すぐりや木苺によく似た灌木に成る。すぐりより疎らだが、濃い紫色の実が纏まって付いている。最初の畝は、すでに他人が採った後なのか、一見、一粒も無いように見えた。しかし、ゆっくり探すと、おや、と思う程見つかる。特にしゃがんで、下から見上げると、眼の前によく熟れた大きな実が付いている事もある。碧の葉が、陽の光に透けている。
次の畝は、まだ薄い赤紫の未熟な実と熟した実を区別しなければならないほど、豊富に実がなっていた。
一人で木に向かって、小指の爪ほどの実を採る。単純な作業だから、『ミレイユ』の少女達の桑の葉摘みの歌のように、いろいろな歌が生まれたのかもしれない。
枝や実を傷つけないようにと、静かな動作だから、気持ちが落ち着いて来る。
十日程前、こうして摘んでいる時に、携帯電話が鳴った。仏蘭西人の友人から。手術は成功したけれど、業病らしいと、病のせいか、聞き取りにくい声で言った。それでも、手術中に何かなくてよかったと、その時は、気持ちがふと明るくなりさえした。此所数日連絡が無い。
尋ねる事が却って残酷になってしまうのではないか、と、息をひそめるようにして待っている。
「あら、私よりも沢山摘んだわね」
苔桃が一杯のプラスチック容器を両手に、たっぷりと太った身体をゆさゆささせてやって来たB夫人が、大きな声で叫んだ。
「白チーズに混ぜて食べるの」
夫人が持って居るのは、5リットル入り白チーズの容器だった。

ものいえばさびしかるらむ夏木立


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