『二都物語』(ディッケンズ)

ノートル=ダム大聖堂を対岸に望むセーヌ河畔の英書専門の老舗。昔ながらの暗い店内には、書棚が所狭しと並び、はみ出した本が、積み上げてある。古書も新書もある。往年、近くに住んでいた森有正氏も、屢々訪れたことだろう。
もう数年前、何の折りにか立ち寄った。欲しい本があった筈だが、見つからなかった。それで手頃な読み物でもと、店先の古本を眺めていた。ペンギン版『二都物語』。さして興味があるわけでもなかったが、まあ、名作だからと、買っておいた。それをこの夏、田舎用の本の箱に入れてきた。 最近数回、倫敦に行く機会があったので、何となく書棚から手にしたらしい。
子供の頃、縮小版で読んだようにも思うが、全く覚えていない。
所謂少年少女向けの名作全集は、一長一短があるようだ。読書の楽しみを覚え、その幅が広くなるのは有益だが、あくまでも子供向けに改められているので、それだけを読んで終ってしまうと、原作の深い味わいを知らずに過ごしてしまう。
仏蘭西革命を背景にした『二都物語』は、波瀾万丈、次から次へと事件や謎が続き、鎖のように繋がっているので、筋だけ追っていても子供には、充分楽しいだろう。しかし、苦労人ディケンズの代表作といわれる真の価値は、大人になってからでないとわからないのではないだろうか?
例えば、ルーシーに捧げるシドニー=カルトンの至純の愛。その意味と類い稀さは、有る程度人生経験があって、初めて理解できる。それだけに、彼は、登場場面が少ないにもかかわらず、最も印象に残る。やはり、主人公だ。小説を読んで息を殺し涙を流す事は、最近あまり無かったが、今回は最後が近づくにつれて、彼一人に引込まれてしまった。たまたま巴里から田舎に帰る電車の中で読んでいたから、他人に見られたら、ちょっと恥ずかしかったろう。幸い、乗客は少なかったけれど。
もう一つ、変革期を舞台に多くの登場人物が出て来るにも関わらず、作者は、二十年程の時の流れを、その一人一人に当てはめて描いている。初々しい少女が妻となり母と成る。一度は廃人同様に至った優秀な医師が、その痕跡とともに生きて行く。仕事一途の忠実な友が、終生変わらぬ誠実さを保ちつつ老いを迎える。長い歳月をひたすら復讐のために生きた女は、最初の目立たない端役から一挙に重要性を増す。この歳月とともに変わる部分と変わらない部分とを持つ人の姿も、自分が年を重ねてこそ実感できる。
反復の多い、独特の文体は、大衆小説風なのだろうか。よくわからない。
読みやすくもあり、気にもなる。しかし、奔流のようにその中に呑み込まれていた夏の一時は、いい思い出となった。

鎧戸の破れし売り家の庭先の紅薔薇一輪細き枝先


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