本好き

「あの子と、また話しましたよ。自分から隣に来て、話始めたのです。別に、呼ばなかったのに。」
八十四歳、熊のように大柄なM氏と、十歳の小柄な男の子が並んでいる姿は、思い浮かべても微笑ましい。
私が泳いでいる間、M氏は、池の回りを散歩して鴨の数を数えたり、木陰で本を読んだりしてから、プールの受付に備えてある椅子で待っている事がある。A君は、夏休み後半、ほぼ毎日のようにお祖母さんの赤い車で、やって来る。ほっそりと浅黒く面長で、少し窪んだ大きな目が印象的だ。よく似た、鶴のように痩せたお祖母さんは、ゆっくり平泳ぎをするが、A君は、寧ろ水球や投げ輪の方が好きらしい。お祖母さんも相手をしてくれるが、独りで、時にはたまたま一緒になった同年代の子供達とも、遊んでいる。もう三年程まえから、見掛けている。
最初は、個別の着替え室での会話が聞こえてきて、気付いた。いつもにこやかなお祖母さんが、「そっちの腕を出してーーー」とか、いいながら着せていた。その間中、『マミド−(優しいおばあちゃん)』と、呼んでは、いろいろ尋ねたり、歌を歌ったりしている。随分好奇心旺盛な子供と、おもしろかった。
お祖母さんも、一つ一つ丁寧に答えていると思ったら、元小学校の先生。教育関係者同士で、いつのまにかM氏とも言葉を交わすようになっていた。
甘いだけでなく厳しいらしい。去年は、「マミドーが、毎日宿題を見て、また書き取りもさせるんだ。」と、A君がこぼしていた。毎朝、菩提樹の下で、母親に書き取りをさせられたM氏は、同情しつつも、「一昔前のいい教育法です。基礎がしっかりできるから。」と、お祖母さんの肩を持った。確かに、中学校卒業者の文盲率が20パーセントという、教育崩壊時代にあっては、A 君は、幸せな例だろう。
今年は、「本を読むのが大好だといっていましたよ。」と、M氏も嬉しそうだ。
———「何読んでいるの、ジュール=ヴェルヌ」(子供時代、M氏のお気に入りの作家だった。)
———「違う、ギリシア神話。」
「よく覚えていて、説明してくれました。鍛冶屋の神様、とか、大地の女神とか」と、M氏も感心していた。
外国語は、独逸語を取りたかったけれど、英語を勧められたので、従った。
「でも、その後で独逸語もすると言っていました。」
と、これも中学高校と独逸語を選んだM氏には、嬉しいらしい。
夏休みは、先週で終わり。
来夏、また赤い車の二人に会えるといい。

月桂樹木立透かせば秋の空


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Author:桐の葉も
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