朝市のメロンと『梟党』

夏の朝市には、メロン売りが数軒たつ。他の野菜や果物も一緒に並べている店もあるが、メロン専門の店もある。
メロンは、天使猫亜子ちゃんの大好物だった。二十一年前の七月末、まだ掌にのる大きさで引き取られて来た亜子ちゃんは、毎朝、一匙づつ掬ったメロンの果汁を舐めていた。最後の夏にも、半分に切ったメロンに顔を突っ込むようにして果汁をすっている写真がある。
数年前から、メロンは大抵、山羊のチーズ屋さんの隣、町で一軒の本屋の前の専門屋台で買う。
大中小と仕分けて山摘みにされたメロンは、外皮が緑で果肉は樺色。
「おいしいよお。味見してってくれよ。ヴァンデのメロンだよ。」
陽に焼けた小柄な中年女性が、威勢よく叫んでいる。
「ヴァンデ地方から来ているの」
「そう、産地直売」
おばさんは、誇らしげだ。
ヴァンデ地方といえば、フランス革命のおり、貴族も民衆も反革命派として蜂起した熾烈な戦いの舞台。「ヴァンデの聖人」と呼ばれた若き行商人カトリノーや、弱冠二十二歳で戦場に散った指揮官ド=ラ=ロッシュジャクラン伯爵など、硬骨の士を生んだ土地柄。
いわれてみると、小母さんも、なかなか厳しい面構えをしている、ような気がする。
ヴァンデ地方の反革命の波は北上して、バルザックの小説でも知られる『梟党』にも影響した。手元のフォリオ版『梟党』の表紙は、『歴史新誌』ヌーヴェル=ルヴュー=ディストワールの「ヴァンデ党」特集号の表紙と同じカトリック王党派の一人タルモン公の肖像画を使っている。それまで知らなかったフランス革命の一面に大いに驚きながら、読んだ作品。
ヴァンデ党も梟党も、中央に対する地方独自の矜持を、命をかけて示したのだろう。
今でさえ、こうして夏の間だけでも田舎に住んでいると、パリはフランスそのものではないと、つくづく思う。
「今日食べる分と、二、三日後用と分けとくよ」
おばさんは、慣れた手つきでメロンを撰んでくれた。

鴇色の薔薇の蕾に夏の雨
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桐の葉も

Author:桐の葉も
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