A***氏との再会

「あっ、A***氏」
思わずM氏の袖を引っ張った。
恒例八月十五日聖母被昇天祭の御彌佐の後。聖マルタン教会の脇の扉から出てきたのだろう。ゆっくり、何となく要心している様子で、しかし、背筋をのばしまっすぐ前を見つめて歩いている老人。
「そうです。そうです。」
聖母像奉納行列を見送っていたM氏は、振り返って大声をあげた。猫背を一層前屈みにして、出来る限り早足で、でも、こちらも転ばないように要心しながら、 A***氏に近寄って行く。
「あ〜。」
と、二人一緒に破顔一笑。八十四歳と九十五歳。
「いや、九十五は今週で終りましたよ。」と、 A***氏。
薄い翠の麻のワイシャツに、紺と臙脂色のネクタイ、灰色がかった上着に、翠と灰色の細かい縞のズボンをあわせている。眼鏡もかけず杖もついていない。透明な補聴器だけが、ほんの少し見えている。
朝市で一度も姿を見掛けていないため、先日行きつけの薬局のC夫人に尋ねてみた。
「踏み台から落ちて、入院したそうですよ。果物をとろうとして」
「は〜っ。」
M氏も私も慨嘆しつつ顔を見合わせた。これまで何人の高齢者が転んだり、ちょっとした所からおちたりして大事に至った話を聞いているだろう。
「そんな、九十五歳で、踏み台に乗るものではないわよね。」
「そうです、そうです、絶対いけません」
日頃喧しく注意されているM氏は、熱心にうなづく。
何だか悔しくて、腹がたってくるくらいだった。去年の夏、ちゃんと歩いて朝市に来ていたのに。買い物の目録迄作って、お肉も買ってーーー。
「怪我をしたと聞きましたよ。」
「ああ、あちこち。一度は脇腹をね。この間は、左肩をね。踏み台には乗らないようにって、前々から注意されていたのにーーー。今度は、本当に凝りましたよ。」
にこにこ笑っている。
「一週間だけ入院してね。また、少しずつ、朝市にも行きますよ。だってねーーー」
軽く拳を握るようにして、
「長生きするだけではなくて、やはり、生きないとね。」
ヴィーヴル(生きる)。
そして、悪戯っぽく笑って付け加えた。
「でもね、水泳はもうだめですよ。」
若い頃、M氏の父親を知っていたという A***氏と、知り合ったのは、プールがきっかけだった。少なくとも八十歳までは、背泳ぎで泳いでいたように思う。
「では、また来年、できればね」
「また来年」
M氏に続いて握手をする。
柔らかな暖かい手だ。
A***氏 は、先ほどと同じように、背筋を伸ばしまっすぐ前を見て、通りの反対側の小路へ消えて行った 。

野の鳥の一斉に立つ青空に白雲流れる休暇の後半


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