ヴェネチア=バロックの一曲

照るともない青空を、雲が淡淡しく流れて行く万聖節の夕刻、聖R教会で、小音楽会が催された。
小さな御堂には、所狭しと極彩色の聖像や写真、色とりどりの花束や造花が飾ってある。無数の蠟燭の赤い光が、揺れている。両側の壁の上部の無彩色の窓が、弱々しい日の光を透かしている。
聴衆は二十人程だろうか?白髪が目立つ。
クラヴサンとソプラノ、ヴェネチア=バロックの夕べ。モンテベルディやヴィヴァルディの歌曲。二人ともまだ若い。硬質の澄んだ声と、撥弦楽器の鋭い響きとが、不思議な程、ひっそりと儚い。曲毎に、クラヴサン奏者が簡単な説明を加えてくれる。
「これから演奏するカヴァッリの曲の一節は、現代の有名なシャンソンによく似ている筈です。同じ和音、諧調ですから。」
確かに、知っている気がする。もの哀しく、それでいて想いが籠っている。
答えはーーー。
「Ne me quitte pas.」
邦訳「行かないで。」勿論、ジャック=ブレルの原詞は、恋愛詩なのだけれどーーー。
「逝かないで。」
もう二度と、一瞬でも離れる事のない存在になってしまったーーー。

見知っている教会と、やや趣を異にすると思ったが、同じ旧教でも独自の立場を守るガリカン派との事。此処では、死者の月である十一月の第一日曜日には、動物達にも祝福を与えてくれるという。ふと来てみたくもなった。
しかし、結局、いつも通り、家の向かいの教会に行った。
黒白猫の亜子ちゃんは、よく出窓に坐って眺めていた。鐘楼の付いた丸屋根と、飛び立っては戻ってくる鳩達とを。

朝な朝な共に聞きたる鐘の音の今朝も消えゆく空の果てまで
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桐の葉も

Author:桐の葉も
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