絞りの羽織

或る年齢に達した頃から、母はよく羽織姿で外出していた。三寸帯を貝の口に締め、派手な着物には地味な羽織、渋めの着物には華やかな羽織と、年相応に組み合わせを変えながら。お太鼓の帯つきが、重たくなったからと言っていた。しかし,羽織姿には、何かなよやかな独特の魅力がある。蕗谷虹二や中原淳一の少女達、竹久夢二の娘達、鏑木清方や上村松園の女達に通じる懐かしさといってもいいかもしれない。十数枚の羽織はみな巴里に持って来た。
先日,ある映画の撮影に必要かもしれないということで、濃い紫の総絞りの羽織を貸した。母の羽織が映画の画面に出るのかと、ちょっと不思議な気がした。結局、脚本の都合で使用されなかったが、衣装係の人も、その繊細な美しさに感嘆してくれたという。畳紙に仕舞乍ら、ふと思い出した。
母から初めて羽織の紐の結び方を教えて貰った時、上手くできなくて何度もくり返した。あれは、何歳の時だったのだろう。
 耳元に猫の寝息の秋小寒
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桐の葉も

Author:桐の葉も
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